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    なぜWebメディア向けにAI音声SaaSを作ったのか

    なぜWebメディア向けにAI音声SaaSを作ったのか

    2026年7月28日|更新: 2026年8月12日

    目次

    1. 1.「枠を一個足せば、月間でこれくらい伸びます」
    2. 2.広告のあとで、メディアは何を持つのか
    3. 3.「読む」以外の届け方を、一本持っておくこと
    4. 4.導入先で見えている変化
    5. 5.なぜ広告モデルにしなかったのか
    6. 6.「読みながら聴く」という体験
    7. 7.届け方を一本増やす、というだけの話
    8. 8.関連する記事

    「枠を一個足せば、月間でこれくらい伸びます」

    2015年頃の話です。私は大手出版社系メディアで大規模サイトの収益化とデータ分析に携わっていました。メディアの担当者に対して、よくこういう提案をしていました。「ここに広告枠を一個足せば、月間でこれくらい収益が伸びます」。試算は基本的に当たります。だから、足される。ページのスクロール途中、記事と記事のあいだ、フッターの下。枠が増えていく。

    当時はプログラマティック広告の黎明期で、RTB(リアルタイムビディング)への移行が加速していた時期でもありました。eMarketerのデータによれば、2015年時点で米国のディスプレイ広告費の約6割がプログラマティック経由でした。日本でも同じ潮流が来ていて、メディア側は「枠を増やせば増やすほど単価が落ちるが、トータルでは増える」というジレンマの中にいた。

    同じループが、強度を増して回り続けます。広告単価が下がるから枠を増やす。枠が増えるからユーザー体験が落ちる。体験が落ちるから滞在時間が短くなる。滞在時間が短くなるから、また単価が下がる。このループのなかで、メディア側も広告会社側も、それぞれが自分の事業を守るための合理的な判断をしているだけなんです。ただ、その合理的判断の積み重ねが、全体としては不合理的な結果を生んでいる。この構造については、Webメディアの広告収益はなぜ伸びないのか?3つの構造的問題を解剖するで改めて整理した。

    私自身、広告で食ってきた業界の人間です。現場で広告運用に関わっていた身として、ITP(Intelligent Tracking Prevention)が来たときは、かなりのボディブローとして受け止めました。Cookieが効かなくなる。オーディエンスの精度が落ちる。広告主の出稿意欲が下がる。メディアの収益が、内側から削れていく。

    この構造は、いまも続いています。

    広告のあとで、メディアは何を持つのか

    その後、SSPやアドネットワーク事業にも携わり、今度は広告インフラ側に立った。プログラマティック広告の収益化支援と、そのデータ分析を担当しました。

    視点が変わった。広告会社にいたときは「メディアの収益をどう伸ばすか」だったのが、メディア側では「収益を伸ばしつつ、編集チームのモチベーションと読者体験をどう守るか」になった。この二つは簡単には両立しない。

    正直に書くと、広告依存のメディア運営の限界を、現場で何度も目にしました。PV(ページビュー)が上がると広告収益が上がる。だからPVを追う。PVを追うために、見出しを煽り気味にする。記事を細かく分割する。リコメンドウィジェットで自社内を回遊させる。読者が開いた瞬間に何秒留まるか、CTR(クリック率)がどう分布しているか。そういう数字を毎日見ていると、いつの間にか「読者」ではなく「トラフィック」を見るようになる。

    グロースハックの提案を自分の口でしてきた経験から言うと、「この施策でCTRが何%上がりました」と報告する瞬間は確かに嬉しい。でも、その数字の裏で、何人の編集者が「この見出しで本当にいいのか」と葛藤しているかを知っている。メディアの現場では、常にジレンマと隣り合わせで仕事をしている。

    誰も悪いことをしているわけではない。メディアは事業として成立させなければならない。編集者は記事を書く人件費を払わなければならない。サーバー代もかかる。ならば広告収益を最大化するのは、事業を続けるための合理的な判断だ。

    ただ、その結果として読者体験が圧迫されていくのも、また事実でした。スマホでニュース記事を開いたとき、本文より広告のほうが目立つ画面を見たことが、みなさんにもあるのではないでしょうか。

    業界の中にいた人間として、これは誰かが意地悪をしているわけでも、メディアが堕落したわけでもないと知っている。構造として起きていることなんです。

    「読む」以外の届け方を、一本持っておくこと

    2025年5月、株式会社メディアリープを創業しました。

    起業の直接的なきっかけはいくつかあります。生成AIが実用レベルに達して、音声合成のコストが劇的に下がったこと。インフラ面では、Google for Startups Cloud Programの支援を受けられたことが安心材料になりました。ただ、根本的な動機はもっと単純で、ずっと頭の片隅にあった疑問を解きたかったというのが正しいと思います。

    広告会社とメディアの両方で仕事をしてきて、一貫して感じていたことがありました。「コンテンツの価値」と「それが届く経路」は別の問題だ、と。どんなに良い記事を書いても、届く経路が「検索とSNS経由のテキスト読み」だけだと、触れられる人の層に上限があります。通勤中、散歩中、家事をしている間、そういう「目が使えない時間」に届く経路があれば、コンテンツの価値はその分だけ広がるはずなんです。

    「情報は、届け方次第で人の行動を変えられる」。

    これは私が事業の信念としている言葉なんですが、メディア側でデータ分析をやっていた頃から、ずっと気になっていたことがありました。良質な記事が、届かない。書かれた瞬間はSNSで少し拡散されるけれど、数日経てば検索経由のロングテールだけで生きることになる。一方で、ポッドキャストやラジオのような音声コンテンツは、通勤中や家事をしながら聴く習慣として、日常に溶け込んでいる。

    オトナル・朝日新聞社の共同調査(第6回ポッドキャスト国内利用実態調査、2026年2月公表)によれば、日本のポッドキャスト月間利用率は18.2%。2020年の14.2%から着実に伸びているが、米国の58%(Edison Research, The Infinite Dial 2025)とはまだ差がある。特に15-19歳では40.5%に達しており、若年層を中心に裾野は広がっている。だが、その裏で「音声でニュースや記事を聴く」行為自体は、読書アプリの朗読機能やスマートスピーカーのニュース読み上げを通じて、すでに多く人がやっている。

    つまり需要はあります。供給側が追いついていないだけではないでしょうか。

    私自身の原体験と照らし合わせても、同じことを感じます。洗い物をしている15分、駅まで歩く12分。そういう時間に、テキスト記事を開いても、結局読み進められません。手が塞がっていてスクロールできないし、画面を見続けられないからです。でもポッドキャストなら聴けます。耳が空いている時間は、すでにそこにあります。テキストメディアが、その時間にまで届いていないだけなのです。

    「読む」と「聴く」は上下関係ではなく、並列です。テキストで読むのが得意な人もいれば、耳で聴くのが好きな人もいます。同じ記事を、届け方を変えるだけで触れる人の層が変わります。そうだとしたら、メディアが「読まれる」ことだけに依存する構造は、もったいない構造なんだと思います。

    「読む」以外の届け方:目が使える時間と耳が空いている時間は並列。同じ記事が届く人の層が変わる

    導入先で見えている変化

    PUBVOICEは、Webメディアの記事をAIが自動で音声に変えるSaaSです。RSSフィードから記事を取得して、TTS(テキスト読み上げ)で音声を生成し、JavaScriptを1行埋め込むだけで再生プレイヤーが表示される仕組みです。

    数字の話を少しだけ書きます。これまで私はキャリア通算で30社以上のメディア収益化・導入支援に携わってきましたが、その延長でPUBVOICEを導入した一部のメディアでは、滞在時間が平均して3倍に伸びる、リピート率が+5%上がる、PVも+5%増えるという変化が報告されています。

    ただし、これらは限定的な計測であり、すべての導入先で同じ効果が出ることを保証するものではありません。計測はごく一部の導入先(対象は音声プレイヤーが再生されたセッション)をベースにしており、対照群(音声なし)との厳密なA/Bテストではなく、導入前後の比較です。また、バックグラウンド再生がGA4の滞在時間計測に与える影響も完全には切り分けられていません。あくまで「傾向としてこの方向の変化が見られている」という位置づけで読んでください。

    それを踏まえた上で、私が一番「あっ」と思ったのは、リピート率でした。

    滞在時間が伸びるのは、音声を聴きながら記事を読む人が増えるからだと予想できました。PVが上がるのも、音声プレイヤー経由で別の記事に遷移する動線ができたからだろうと思っています。でもリピート率が上がったのは、想定外でした。

    分析してみると、音声を聴いた読者が「また聴こう」と戻ってくる動きが見えました。訪問のきっかけが、検索流入から習慣的な再生へ寄っていく。届け方が変わることで、関係性の質が変わります。この構造こそが、私が見たかったものだった気がします。

    ボイスクローンで編集者本人の声を載せているメディアもある。書いた人の声で届く。テキストだけのときには出てこなかった距離感の変化が、フィードバックに表れる。

    なぜ広告モデルにしなかったのか

    PUBVOICEの料金設計について、よく聞かれることがあります。「プレイヤーの中に広告を入れて、メディアには無料で提供すればいいのでは」と。

    実際、そういう設計にもできました。プレイヤーに音声広告を挿せば、メディアは無料で使えますし、うちは広告収入で稼げます。広告で食ってきた人間としては、馴染みのあるモデルです。

    ただ、それをしませんでした。広告を増やす側にもう一度回るなら、このプロダクトを作る意味がないと思ったからです。枠を増やすことと、既存の枠の価値を上げることは違います。後者の道具を作りたかった。

    だからメディアには費用を負担してもらう構造にしました。Freeプランは用意しましたが、本格的に使うには有料プラン(1,480円/月〜)になります。これは楽な選択ではありません。メディアの現場で、毎月のランニングコストを議論しながら予算をひねり出してもらっている重さは、じわりと響いています。

    「広告を増やしたくない」と言いながら課金する以上、それに見合う効果を出す責任が、私にはあります。

    「読みながら聴く」という体験

    PUBVOICEの音声は、記事を要約しているわけではありません。記事の文脈や構造(見出し、箇条書き、表)を理解した上で、耳で聴きやすい台本に組み直してから音声を生成しています。「上の図を参照」のような視覚前提の表現を、自然な話し言葉に変換します。記事の主張や情報は漏らさず載せたまま、耳向けに最適化しています。つまり、音声はテキストの代わりではなく、テキストと並んで存在します。

    ここが、記事を動画化するサービスとは決定的に違います。動画は画面を占有する形式だから、テキストの代わりになってしまいます。音声だけが、テキストと同時に消費できます。読者が「読みながら聴く」という体験は、他社があまり訴求していない切り口ですが、私が一番大事だと思っているものです。

    「読みながら聴く」体験がなぜ意味を持つのか。読書速度が音声にガイドされて、離脱しにくくなります。視覚に困難のある読者や、日本語を学ぶ読者にも届きます。そして、読者が画面を見たまま音声を聴くことで、ファーストビュー外の広告枠が視認される時間も伸びます。広告を増やさずに、既存の広告の価値を上げる道が、ここにあります。この点については、別記事で改めて整理しました。

    届け方を一本増やす、というだけの話

    ここまで書いてきて、改めて思うことがあります。

    PUBVOICEを作った理由は、Webメディアを救うためではありません。メディアの収益課題は音声化ひとつで解決できるほど単純ではありませんし、そのことは事業を始めた時点から分かっていました。

    私が作りたかったのは、コンテンツを届けるルートを一本増やすこと。目で読まれる以外の届け方を、メディアが手軽に持てるようにすること。書き手と読者のあいだにある谷を、音声という形式で橋渡しすること。その結果として、広告依存度を少しでも下げる道が開ければ、それはそれでいいのです。

    その変化を支援する道具として、PUBVOICEがあるという整理で十分だと思っています。

    夜中にダッシュボードを開いてため息をつく日のほうが多い、ひとり起業の現実もあります。想定していた1年後ラインのユーザー数にも売上にも届いていないのも事実です。それでも、導入先から「読者の声が初めて届いた」という報告を聞くときは、この方向で間違っていないんじゃないかと思います。

    コンテンツを届けるルートは、もうテキストだけじゃありません。これからのメディアが、その事実をどう受け取るか。見守っていきたいです。

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    笹尾 祐太朗

    笹尾 祐太朗

    代表取締役 / 株式会社メディアリープ

    KADOKAWA / ドワンゴでのWebメディア収益化・データ分析、SSP / アドネットワーク事業でのプログラマティック広告収益化支援を経て、2025年5月に株式会社メディアリープを創業。AI音声SaaS「PUBVOICE」、観光DXアプリ「ANIME TRAVEL」、音声AIチャットアプリ「AITOMO」を企画・開発・運営。広告・技術・分析・事業を横断する視点から、データをもとにしたメディア収益改善に取り組む。

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