Why Web Media Ends Up Full of Ads: The Economic Inevitability
スマホでニュース記事を開いたとき、本文が始まる前にスクロールを2回くらいしないといけない経験はないだろうか。バナーがあって、動画が自動再生されて、閉じたらまた別のバナーが出てくる。読み終わったあとには、関連記事の間にも広告が挟まっている。
これを見て「メディアは広告を詰め込みすぎだ」と思う読者は少なくないだろう。たしかに、見た目の話だけをすればその通りだ。
ただ、業界の中にいた人間として、これは誰かが意地悪をしているわけでも、メディアが堕落したわけでもないと知っている。合理的な判断の積み重ねが、この風景を作った。
私はWeb広告とWebメディアの両側で10年近く仕事をしてきた。KADOKAWA / DWANGOで大規模メディアの収益化とデータ分析をやり、その前後でSSPやアドネットワーク事業にも携わった。「ここに広告枠を一個足せば、月間でこれくらい収益が伸びます」という提案を、メディアの担当者に対して自分の口で何度もしてきた側だ。私自身、広告で食ってきた業界の人間である。
その私が、なぜいま広告収益の限界を書いているのか。自分も加担してきた構造を、内側から見てきた人間として整理したい。
広告会社が売上を伸ばす最短ルートは、枠を増やすこと
身も蓋もない話を書く。
Webメディアの収益の多くは、いまでも広告収入に依存している。月間PVが1,000万を超えるようなメディアでも、広告以外の収益柱が育っていないケースは珍しくない。
広告収入は基本的に「インプレッション × 単価」で決まる。インプレッションは、広告が画面に表示された回数のことだ。つまり、収益を増やすには、ページビューを増やすか、1ページあたりの広告表示回数を増やすか、単価を上げるかの三つのルートしかない。
このうち、ページビューを増やすのは時間がかかる。SEOの施策を打って、コンテンツの質を上げて、読者に届くのを待つ。半年、一年と付き合う必要がある。単価を上げるのも、メディア側だけでコントロールできるものではない。オークション型の広告市場で決まる数字だから、需要と供給のバランスに左右される。
残るは、枠を増やすことだ。
記事の上にバナーを一つ足す。記事の下にもう一つ。サイドバーにレクタングルを置く。本文の途中にインフィード広告を挟む。動画広告を自動再生にする。どれも、コードを少し書き換えるだけで済む。そして効果の試算は、基本的に当たる。「この枠を足せば、月間でこれくらい」という数字を出せば、それはだいたい正しい。
だから、足される。
私はこの提案を何度もした。KADOKAWA / DWANGOのメディアで広告運用を担当していた頃、月次の収益目標を達成するために、広告枠の追加は最も手っ取り早い手段だった。担当者の意図が悪かったわけではない。目標数字があって、それを達成する手段が目の前にあって、選ばない理由がなかった。ただそれだけのことだ。
枠が増えると単価が下がる、という負のスパイラル
ここに、もう一つ動かしようのない事実が乗る。
広告枠を増やすと、1ページあたりの広告表示回数は増える。インプレッションは増える。でも、同時に、1ユーザーあたりの広告接触頻度も上がる。同じ人が同じページで何度も広告を見ることになる。
広告主からすると、同じユーザーに何度も広告を表示しても、効果は頭打ちになる。クリック率もコンバージョン率も、2回目以降は下がっていく。だから広告主は、「同じユーザーへの重複表示」に対しては低い単価しか払わなくなる。
プログラマティック広告の市場では、この調整がリアルタイムで起きる。RTB(リアルタイムビディング)のオークションで、広告枠の価値は瞬時に評価される。枠が増えすぎたページの広告単価は、機械的に下がる仕組みだ。
つまり、枠を増やしてインプレッションを稼ぐと、今度は単価が下がって、結局収益が思ったほど伸びない。だからまた枠を増やす。同じループが、強度を増して回り続ける。
SSPやアドネットワーク側にいた人間として、メディア側の収益が削れていく構造を内側から見てきた。枠を増やせば短期的には売上が上がる。でも中長期で見ると、単価の下落がそれを食ってしまう。この構造に気づいている現場の担当者は少なくなかった。ただ、四半期の目標数字が目の前にあると、長期的な話をしている余裕がないのが現実だ。
アドブロックとITPが、構造をさらにきつくしている
もう一つ、業界の外からはほとんど見えていない圧がある。
アドブロックの普及率だ。PageFairの調査(2023年)によれば、全球でデスクトップのアドブロック利用率は約30%に達している。モバイルではまだ低いものの、年々増えている。3人に1人が広告を見ていないという前提で、収益設計をしなければならない。
さらに影響が大きいのは、AppleのITP(Intelligent Tracking Prevention)だ。SafariでサードパーティCookieを制限するこの機能は、2017年の登場から段階的に強化されてきた。2020年にはCNAMEベースのトラッキングまで制限対象になり、広告の計測とターゲティングの精度を根底から揺るがした。
ITPの影響を、現場で広告運用に関わっていた身として、かなりのボディブローとして受け止めた。リターゲティング広告の効果が落ちて、コンバージョンの計測が不正確になって、広告主の予算がWebから離れていく。Cookieの代替技術は模索されているが、Googleが計画していたサードパーティCookieの廃止延期もあり、業界全体の移行先はまだ固まっていない。
ヨーロッパではGDPRが、日本でも改正個人情報保護法が、トラッキングへの規制を強めている。規制に対応するコストも、最終的にはメディアの収益を圧迫する要因になる。
アドブロックで表示機会が減り、プライバシー規制でターゲティングの精度が下がり、その結果として広告単価がさらに下がる。この三重の圧が、いまメディアの収益構造にのしかかっている。
広告単価の長期的な趨勢
CPM(1,000インプレッションあたりの広告単価)の推移を見ると、ここ数年は横ばいか微減のメディアが多い。
原因は複合的だ。前述のとおり、枠の過剰供給が単価を押し下げている。それに加えて、GoogleやMetaといったプラットフォーム企業が広告市場のシェアを寡占していることも大きい。eMarketerのデータ(2024年)によれば、米国のデジタル広告支出のうち、GoogleとMetaの2社で約半分を占めている。日本でも似たような傾向だ。
プラットフォームに予算が集中するということは、一般のWebメディアに回る予算が相対的に減るということだ。メディア側は、プラットフォームからこぼれ落ちる予益生き残る必要がある。
2020年前後にオンライン広告費が急増した時期があった。コロナ禍でデジタルへの移行が加速し、CPMが一時的に押し上げられた。しかし、その反動で2022年以降は広告費の伸びが鈍化し、多くのメディアでCPMが元の水準に戻った、あるいは下回った。一時的な特需で収益設計をしてしまったメディアほど、いごこちが悪い状況になっている。
正直に書くと、この先CPMが劇的に回復する材料は見えない。むしろ、緩やかに下がっていく可能性のほうが高いと思っている。
広告以外の柱を、いつ育てるのか
ここまで書いてきた構造を整理すると、次のようになる。
広告依存のメディアは、枠を増やして収益を稼ぐしかない。でも枠を増やすと単価が下がる。そのうえ、アドブロックとプライバシー規制で表示機会とターゲティング精度が削られる。プラットフォームに予算が吸い上げられて、一般メディアに回る金額は相対的に減る。
どれも、誰かが悪いことをしているわけではない。広告主は効果に対して正当な対価を払おうとしているし、プラットフォームは効率的な広告配信インフラを提供しているし、ユーザーがアドブロックを使うのも合理的な選択だ。規制も、消費者のプライバシーを守るための社会合意だ。
ただ、結果として、Webメディアの広告収益は構造的に頭打ちになっている。
だとしたら、メディア運営者として考えるべきは、広告の枠をどう増やすかではなく、広告以外の収益柱をどう育てるか、なのだと思う。
サブスクリプション、会員制コミュニティ、イベント、グッズ、コンテンツのライセンシング。選択肢はいくつかある。どれも一朝一夕には育たないし、広告のように「枠を足すだけ」という簡単な話でもない。読者との関係を、PVという間接的な指標から、より直接的なつながりに作り替えていく作業が必要になる。
私がいまAI音声SaaSのPUBVOICEを作っているのも、この問題意識と無関係ではない。宣伝みたいになるのでこれ以上は書きませんが、「読む」以外の形でコンテンツを届けることで、滞在時間やリピート率を変えられるのではないかという仮説で動いています。
おわりに
業界に対してこうすべきだ、という結論を書くつもりはない。私自身、広告収益に支えられてきた業界の人間だ。いまもなお、広告は多くのメディアにとってなくてはならない収益源だ。
ただ、現場にいた人間として感じていたのは、「このままで大丈夫なのだろうか」という静かな不安だった。枠を増やして、単価が下がって、また枠を増やす。そのループの中で、読者が見ている風景がだんだん広告だらけになっていく。それが合理的な判断の積み重ねの結果だと分かっていても、どこか違和感があった。
その違和感の正体を、自分なりに言葉にしたかったのかもしれない。
Webメディアの次の収益モデルが何になるのか、私にも確たる答えはない。ただ、答えを探すべき時期に来ていることだけは、たぶん間違いない。
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